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08/03/30 08/04/01〜08/04/05 放送 バックナンバー
悲鳴!虐待から救う児童相談所の現状
ゲスト:花園大学教授・津崎哲郎さん

聞き手:阿部成寿アナウンサー
子どもを虐待から守る法律制定は8年前!
愛情を求める子どもの行動が親の虐待を生む?!
親の『指導』が足かせ!『保護』に躊躇の児相
無い無いづくしの『人員』『施設』で奮闘の職員
組織力キープに必要な専門職員養成には10年!
 子どもに対する親の虐待が、最近急激に増えています。厚生労働省の調査でおととし、殴る、けるなどの虐待で死亡した子どもの数は126人に上り、食事を与えないといった親の育児放棄(ネグレクト)も増加が続いていることが明らかになりました。虐待を受ける子どもたちの最後の砦になるのが児童相談所ですが、虐待数の大幅な増加で充分対応できていません。今週は元大阪市中央児童相談所長で花園大学教授の津崎哲郎さんに虐待数増加の背景などについて伺います。
■子どもを虐待から守る法律制定は8年前!

 児童虐待というニュースが今年に入ってからも近畿では、大阪府岬町、寝屋川市、奈良でも幼い子供に対する虐待事例が発生しています。なぜ虐待が増えてきているのでしょうか?

 「虐待は一貫してまだ増え続けています。国が統計を平成2年に取り始めた当初の1年間は1101件だったと思いますけれど、それ以降毎年国が統計報告を出していますが、1度も前年度を下回ったということはありません。 虐待だけではなくて、家庭で養育できない子供に関する相談件数が、やはりここ15年くらいは急増しています。少子化の社会ですから、子供がどんどん減っているのは確かですが、逆に家庭で養育できないという相談が全国の児童相談所の養護相談や施設に入所している子供の数であるとか、そういう全体的な数は増え続けているということになります。
 日本は戦後ずっと一貫して、家庭内の問題に対して社会は関与しないのだ、民事不介入という考え方が徹底されてきました。というのも、戦前に家庭問題に対して国や社会が関与しすぎて、結局戦争という形に走ってしまった。家庭内の問題は個々の家庭に問題を任せて国や社会は関与しないのだ、という形が強調されたのです。自分たちで解決しなさい、という仕組みですね。
 そういう仕組みのときは地域や親戚集団という人たちがインフォーマルな形でその家庭に関与できるので、国や社会が関与しなくてもいろいろ調整の機能が働いて問題が処理できるということがあるのです。
 ところが、地縁や血縁が希薄化して家庭に地域や親族が入ることができなくなってきたときに、その家庭の中は無法地帯になるわけです。社会が民事不介入で関与しない。そして地域や血縁が関与しないということになったとき、密室化状態になるんですね。近代の都市化現象の中でそういう家族が広がってきたわけです。
 従来は家庭にどういう形で関与するかというと、申請があったときに資格要件があるかどうかを審査した上でサービスを提供するという形だったのです。でも、こういう児童虐待やDV(ドメスティックバイオレンス:家庭内暴力)は申請行為をしてこないのです。
 子供が被害を訴えて『助けてくれ』と言わないし、加害者のほうも援助してくれとは言わない。そうすると従来の、申請を前提としたサービスではそこに入ることができないのです。家族が孤立化して、民事不介入と言っていた頃は家庭内の犠牲がどんどん一方的に増えてしまうということがありました。
 要は申請によらない、発見型の家庭介入の仕組みが必要だということで、初めてそれが法制化されたのが平成12年の『児童虐待防止法』なのです。この法律は周りが発見して、相手がニーズを持たなくても行政の方から関与していく仕組みです。そういう仕組みが初めてできて、戦後の民事不介入の仕組みがある意味で壊れたわけです。
 逆に言うと、やっと平成12年に初めて国や社会が家庭に関与していく法律の枠組みが新たにできたということです。『児童虐待防止法』ができたときは『発見と通告』、そして『安全確認と保護』という部分に力を入れることができたわけです。」

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■愛情を求める子どもの行動が親の虐待を生む?!

 津崎先生は元々大阪市の中央児童相談所の所長を勤められていたそうですね。4年前まで30年以上(児童相談所に勤めていたの)ですか?

 「35年間おりました。」


 その35年間の中で、いろんな事例をご覧になってきたと思うのですが、昨今言われている児童虐待・育児放棄などは、携わったスタートの頃と比べて中身は変わってきたのでしょうか?

 「質的な中身は昔も『しつけ』という名目の下、相当ひどい扱いを受けていた子供もいましたから、中身が今ひどくなって、昔はひどくなかったということではないと思います。
 ただ、一昔前はまだ隣の生活が見えやすかったと思います。例えば、大阪市内も木造住宅がまだたくさんあって、長屋形式(の家)もたくさんあった。隣近所があそこの家庭はどういう人がいて、どういう生活をしている、ということが見えたのです。そこで行き過ぎたことがあると、地域や行政の民生・児童委員などそういう人たちも含めて何らかの形でその家族に対して関与していく仕組みが採りやすかった。
 今の虐待の家族は必ずしも昔より体罰がひどいとか親が非常に乱暴だということではなく、その途中のプロセスに人が入りにくくなっています。
 もう1つ、以前と比べて若干違うのは家族が複雑化しているように思います。離婚・再婚、あるいは内縁関係といった複雑な家族が増えている。複雑な家族が増えるときにどうなるかと言いますと、子供と新たな親がいきなり年齢の途中で親になってしまう。
 その時は子供の目から見ると、見知らぬ人が入ってきたと(いうことになる)。それは親の都合で入ってきているのです。子供にとっては最初からなじみのある大人ではない。その人が『お母さんの恋人』、『お父さんの恋人』という人が入ってきて、いきなり親になる。
 ということになると、中途養育ということになるのです。これが基本的にはとても難しいのです。中途で新たな子供の親になるということは、里親家庭は皆そうですけれど、中途で養育するときには、ほとんど全て子供は『退行現象』を起こしたり、『試し行為』をしたりします。
 里親になるときには、『必ず子供は退行現象・試し行為を起こしますよ』と(言います)。それをしっかりと受け止めていただかないと、その時点でしつけをあせると『親子関係は失敗しますよ』という教育をするのです。
 しかし、普通の再婚家庭ではそういう教育がされませんから、いきなり新たな親が来たら『この子供をしつけないといけない』となってしまう。ところが子供の気持ちはまだ親に対してなじんでいませんから、そこで親子関係がギクシャクする。そうすると『しつけができていない子だ』と親は思って(しつけが)エスカレートする。ということで子供の虐待に移行する要素を持っている。
 体罰のきっかけは何だったのかという調査をしていきますと、『夜鳴きがうるさい』とか、『食べ物をきっちり食べない』とか、『おしっこをいつまでも言わない』とか、『うそをつく』とか、子供の成長プロセスでは誰もが向き合わなければならないような問題に向き合えていない。そしてそのことで腹を立てたりいらついて、子供に体罰を与えたり放置したりするということが結構多いです。
 大人自体が子供を育てるということに対する手間暇に耐えられなくなっている。そういう傾向があると言えると思います。」

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■親の『指導』が足かせ!『保護』に躊躇の児相

 児童相談所が果たす役割は、どういうところまでやらなければならないのでしょうか?

 「日本では全部、児童相談所に(役割が)集中しています。基本的には子供に関わる各機関、職種の人たちが発見の努力義務を、そして発見したらすぐに通報しなさいという形で、その通報を受理するところから始まります。
 通報を受理したときに、今はスピーディに安全確認をする(必要があります)。48時間以内に『目視確認』が今は強調されています。従って通報があれば夜間・休日を問わず、体制をとらなければならない。ところがその夜間・休日の体制について、現有勢力でやるのは非常に難しい。
 職権で保護した後、どんな事情が出てくるかというと、相手は力ずくで子供をとられてしまいますから、トラブルになります。必ずと言っていいほど押しかけてくる。そのトラブル処理も今は全部『児童相談所がしなさい』、『体を張って子供を守りなさい』となっているのです。
 ところが児童相談所の職員は、半分くらいが女性です。通常、話し合いができない家庭の子供を保護してくるのですが、話し合いができない人はどんな人かと言うと、やはり性格的に偏りがあったり、中には現役の暴力団員がいたりしますが、児童相談所がそのトラブル対処の前面に出ないといけないのです。
 相手は(職員を)脅します。そこでノイローゼになる職員がどんどん増えている。私はやはりこの段階でも、国が『積極的に介入して職権を発動せよ』というのであれば、調整機能を新たに作らなければ、それも全て児童相談所が身を持って対処しなければならないということではうまくいかないと言っているのです。
 国は介入の後、『その保護者を改善指導しなさい』としているのです。相手は急に子供をとられて児童相談所に反発している。その反発の感情を持っている相手の指導には乗ってこないですよ。介入の役割と援助の役割が矛盾するのです。それでも『児童相談所だけでしなさい』となっているので、なかなかできない。
 基本的に警察には安全確認や立ち入り調査、保護のときにトラブルが起こることを想定して、それを未然に防止するということで援助依頼をする。でもあくまで主体は児童相談所です。トラブルを防止するということが、今の法律上の警察の役割です。
 あまり最初に対立してしまうと、援助しにくくなりますから(親と)対立したくないのです。そうすると最初の介入の際に判断が鈍るのです。今強引に介入すると、親の反発を買うだろうと。客観的な状況から考えると虐待の危惧はあるのだけれど、強引に保護をすると摩擦が起きてしまうのです。トラブルになると後の援助ができなくなるのです。
 そうするともう少し親の言い分に沿って様子を見ようかと。でも見ている間に(子供が)死んでしまうということが起こるわけです。だから役割を1つの機関で担っていることに対する矛盾が出てきているわけです。別の機関がきっちりと後の処理をしてくれて、親の言い分も聞きつつ改善点の枠組みを作ってくれるということになると、最初に躊躇する必要はないですよね。そういう仕組みがないために、最初の介入段階からどうしても及び腰になって、判断を鈍らせて、本来緊急に保護したほうが良いのに保護できなかったということにもつながっていくのだと思います。」

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■無い無いづくしの『人員』『施設』で奮闘の職員

 スタッフ、実際の相談員の数、予算などの問題点はどうでしょうか?

 「今は児童福祉司、中心になる職員はケースワーカーですが、この数は平成12年に『児童虐待防止法』の成立・施行以降、若干増えてはいます。法律の基準も、元々は人口10万人から13万人に1人という基準だったのが、今は5万人から8万人に1人と平成12年に比べるとおよそ1.6倍増えています。
 ですが事例(ケース)はもっと増えていて、さらに今は複数対応せよということになっているのです。以前のケースワーカーは一定の地域を1人で対応していたのですが、虐待のケースは非常に難しいですから、1人では処理できないということで国も複数対応せよ、と。今まで1人でしてきたことを2人でするとなると、倍(のスタッフが)必要です。だから多少人数が増えたところで、うまくいかないという状態になっています。
 日本子ども家庭総合研究所がおよそ2年前に調査したのですが、日本の児童福祉司が1人平均担当しているケースは100件を超えているのです。欧米はほとんど全てがおよそ20件です。日本は欧米と比べると実に5倍も担当していて、しかも欧米の場合は役割分担がなされていますから、初期のプロセスから最終のプロセスまでの一部分を行政が担っています。日本では全部のプロセスを(児童相談所が)担っています。
 そういうとんでもない状態になっていますから、なかなか機能がうまく働かないという状況です。」  


 1人当たり100人を受け持つ、ですか?例えば学校の先生でも1クラス40人の受け持ちでも相当大変ですから、ま、数だけの比較対照ですが、いろんな状況でケース・バイ・ケースで対応しなければならない人を1人当たり100人も。これは無理ですよね。

「無理ですね。結局きちんと援助できずに、本来もっと丁寧に対応しなければならないニーズに対応されていない。特定のケースに集中して、若干言葉は悪いですが、他のケースは放置されている、という状況が日常的にあると思います。」


 数が圧倒的に足りないという問題、それから体制の問題を伺ってきました。それを支える財源はどうでしょうか?

「国も、自治体も財源は非常に弱いです。どちらかといえば人をどんどん減らす方に向いていますから、その中で人を増やして欲しいと言ってもなかなかそれが実現しない。これでもまだ増えたほうだ、と。よその部署はもっと減らしていくのだ、と。公務員削減という形で動いている中で、逆の動きとして増やすということですから、なかなかその辺がうまく機能しない。
 おまけに今は一時保護所が全国的に満杯です。子どもたちが入る主な施設は児童養護施設ですが、それも、特に都市部は満杯です。受け皿がない。
 だから安全を重視する人は、危惧あればすぐに保護を実施すべきではないか、という声もあるわけですが、到底その人たちを保護できる受け皿の枠がない、ということになります。実務では本来保護をしたほうが良いのだけれど『ちょっと今は入れない』と『在宅で様子を見ようか』というケースも少なからず生じています。
 職員やスタッフの問題だけではなく、受け皿の問題ですね。だから、無い無いづくしの中で(仕事を)していかなければならない。一方ではどんどんケースが増えていくというジレンマですね。このジレンマの中で現場のスタッフは非常に疲弊している、という状況が、全国的な状況と言って間違いないと思います。」

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■組織力キープに必要な専門職員養成には10年!

 「(職員の資格については)児童福祉法の中で決められています。社会福祉士の国家試験合格者や大学で福祉、社会学、教育学、人間科学などを学んだ人が一定の実務を経て、児童福祉司として任命されるということが一番オーソドックスな方法です。でも全国的に見ると福祉系の職員だけではなく、元々行政の機関ですから、行政職の人が充当されている。少なくともおよそ半数は全国的に見ると一般行政職の人だと思います。
 こういう人たちは、税金の部署とか、その他のいろんな部署から回ってくるということになります。あまり福祉とは関係ない部署からも回ってきます。そして3年くらいで異動していきますからなかなか組織としての専門性をキープすることができない、ということが大きな悩みの種ですね。」


 スタッフが一丸となって、ノウハウを蓄積する、という次の段階に進まないということでしょうか?

 「私の経験で言うと、組織として専門性をストックして、それをキープしていく。つないでいくためには最低10年必要だと思います。と言いますのも、一般的なケースを理解できて、一人立ちできるようになるためには、最低でも5年はかかるのです。5年未満というのは、まだ教育の途上です。5年たって1人前に担当できるようになって、(次の)5年間でそのノウハウを後輩に伝えたり、指導の役割を担っていく。そうすると5年プラス5年で少なくとも10年必要です。
 10年をローテーションにして換わっていくと、組織としての専門性を継することができるんですけれども、厚生労働省が数年前に調査したデータでは、せいぜい3年から4年で換わっているのです。そうすると常に新人しかいない、ノウハウを伝えていく人もいない。そういう状況で全国の児童相談所は回っているということですから、なかなか組織としての専門力のキープができないわけです。(ノウハウを)積み上げても積み上げても崩れていくという状況の中で、十分に専門知識を持っていろんなケースに判断できるという人材が非常に少ない、というのが実情です。」


 35年もの間、現場をずっと見て回られた津崎さんなのですが、いろんなエピソードがあると思います。

 「何らかの理由で施設に保護し、その施設から引き取られた(子供がいました)。だけど、その先でまた施設に保護されたよ、と聞いたりするのです。なかなか家族の改善というのは難しくて、保護されている間は安全なのですが、『再統合』と言いますけれど、『再統合』してまたそこで虐待ということになってしまうこともあるのです。そういう情報を聞いたりしたときは、非常に残念な気持ちになりますね。」


 『再統合』、つまりもう一度親元に帰してということが、帰されるときの子供の気持ちからすると、『帰りたくない』という顔を見せる子供もいるでしょうし。

 「そうですね。悲惨な事例では『外泊(一時帰宅)をしたくない』と子供が泣き叫んで訴えたけれども、親の要求に抗しきれずに外泊させたらその間に殺されてしまった、という事例もあります。そういう事例を見ると従来児童相談所はどちらかと言うと親の意向を重視していたわけですが、そうではなくて、モノが言えない子供の意向の重視に徹するということを原点にしてほしいと思いますね。」

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