05/06/07〜05/06/11 放送 バックナンバー
働き盛りの痴呆、若年性認知症の問題点
ゲスト:愛都の会・梅原早苗さん、松下 太さん
隠している人も含めて患者は全国に10万人強!?
気になりだしたら病院の『物忘れ外来』に行こう!
認知症患者を怒らない、言っている事を否定しない
社会的に理解されず閉じこもってしまう患者と家族
『愛都の会』に参加して、笑顔を思い出して!
 高齢化社会の到来で、認知症いわゆる痴呆症に苦しむ人、家族が増えています。しかし、認知症に苦しんでいるのは高齢者だけではないのです。40代、50代の働き盛りでも、脳梗塞や事故等で脳に障害を負ってしまい、認知症を発症するケースがあります。しかし、そうした若年性認知症の人達をサポートする社会制度は決して充分とは言えません。今週は、この若年性認知症の問題に取り組んでいる東大阪市のボランティアグループ「愛都(アート)の会」代表の梅原早苗さんと副代表の松下 太さんにお話を伺います。
■隠している人も含めて患者は全国に10万人強!?
 梅原さんは、普段どんなお仕事をなさっているんですか?

 梅原「普段は大阪府社会福祉協議会で、社会貢献支援員という形で生活総合支援をしています。地域に行きまして、制度の狭間にいる方達の相談を受けまして、支援をさせていただくという仕事ですね」


 松下さんは、どういうお仕事をなさっているんですか?

 松下「四条畷学園大学に、この4月からリハビリテーション学部というのがスタートしまして、そちらの方で講師として教員をしています」


 若年性認知症とは、どういうものですか?

 松下「認知症いわゆる痴呆症は、高齢者特有の病気だと思われていますが、実は働き盛りの30代〜50代にも出る認知症があるんですね。若年性認知症というのは、65歳未満で発症する認知症いわゆる痴呆疾患の総称という風に考えていただいたら良いと思います」


 若年性認知症は、最近増えてきた病気なんですか?

 梅原「最近ではなく、前から症状と言うか病気としてはあったんですけど、そういうのが表に出ることはなかったんですね。今のアルツハイマー病も認識されたのは20年位前なんです。そういう事を考えましても、病気という形に認められないまま来たのが、この症状ですので」
 松下「介護保険には、初老期の認知症というのが一応あるんですね。それによると40〜64歳を一応初老期と言っているんですけど、その年代と、なおかつ18〜39歳の認知症を含めたものを今、若年性認知症と呼んでいるんです。
 若年性認知症自体は総称ですので、1つの病気ではないんですね。ですから原因となる疾患というのは、種類を問わずたくさんあるんです。若年性認知症の特徴的な疾患には、前頭側頭型痴呆と言われるピック病とか、あるいは交通事故等で頭を打ち脳に損傷を受けてしまうとか、アルコール性のものとか、そういうものがあります」


 今、若年性認知症に苦しんでいる人は、全国で何人位いるんでしょう?

 松下「1996年に旧厚生省の研究班が調査をしているんですけど、その時は2万5千人〜3万7千人と言っていまして、今現在は全国に4万人以上とも言われています。現実には、隠されている方が多いという事も考えると、その3倍の10万人強はいるのではないか考えられています。
 発病率と言うか有病率と言いますか、それが0.03%という事で、10万人に32人はいると言われているんですね。これを大阪で当てはめると、人口を880万人と見積もって、人口比から2600人位は少なくともいると。で、実際には、その3倍はいるかも知れないと。という事は、それだけの方が病院や施設に行く事ができないでいるわけですから、家で苦しまれている可能性があるのではないかと。もちろん症状の軽い方から重度の方までいらっしゃると思いますけど。まだ家族も気付いていない位の方もいらっしゃるかも知れないですね」

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■気になりだしたら病院の『物忘れ外来』に行こう!
 若年性認知症にはどんな症状が出てくるんですか?

 松下「中心となる症状というのは、高齢期の認知症と基本的には一緒で、記憶障害というのが一番メインだと思うんですけど、原因となる病気の種類とか異常行動は、やっぱり高齢期の痴呆とは明らかに違います。
 一般的に言われる若年性認知症の症状というのは、興奮、暴力、意欲低下、徘徊とかですね。そういうものが多いと言われています」


 どうしてお年寄りと若い方で症状に違いが出てくるんですか?

 梅原「認知症の方に出てくる痴呆症状そのものは、どの病気であっても一緒なんですけど、年齢が若い分、訴える事が、暴力ととられてしまわれがちなんですね。
 例えば声をかけられた時に、ポッと手を振ったのが、高齢の方でしたら力も当然無いですから、当たった方も『ああ』という感じで済むんですけど、40代〜50代の男性の方なんかがパッと振られた時に、それはやっぱり普通にされていても力が強いので、その体力的なものが暴力とみなされる。そこが、暴力が多いと言われる所以なんです。決して、御本人が暴力を振るっているわけではないんです。
 それともう1つは、若年性認知症で一番困っていらっしゃるのは、認知症になっている御本人なんですね。若年性認知症の方は、物忘れしていく段階というのを、御自分で理解していらっしゃるんです。『だんだん忘れていってるな』というのを理解していらっしゃるので、御自身が何度も聞き返しているうちに、『これは忘れている事なんじゃないか、もしかしたらさっき聞いた事なんじゃないか』と不安になってくる。最初はメモをしたり色々するんですけど、『忘れるんじゃないか』という不安が常にあって、そういう状態の時に何か言われて『それ違うよ』とドンと机を叩いたのが、先程と同じなんですが、暴力とみなされたりするわけです」


 単なる物忘れなのか認知症のきざしなのか、どう判断したら良いんでしょう?

 梅原「まだ少ないですけども、色々な病院に『物忘れ外来』だとか『心療内科』というのがあります。高齢期も含めた認知症の医師はまだ少ないですけどいらっしゃるので、近くの『物忘れ外来』をやっている病院に行っていただくのが良いと思います。それが物忘れであるか認知症であるかというのは聞いてもらえると思います」


 治療法はあるのですか?

 松下「認知症そのものを治す治療法は、今現在は無いですね。
 アルツハイマー病でも、進行を抑える薬は開発されているとは聞いていますが、それも本当にごく初期のわずかな時期に効くという事で、気付いた時にはたいがい遅いんですね。発見時点でなかなか効くという薬が無いという事で、やはり早期発見、早期対応というのが、今認知症の中では一番重要という風には言われていますね」


 そうすると発症が解った時にどうサポートしていくかが大事になってきますね?

 松下「働き盛りの時にそういう事になった御本人の気持ちというのは、計り知れないものがあると思うんですよね」
 梅原「そこを、一番不安な御本人がどうしたいのかを皆で一緒に探っていきましょうというのが今の段階ですね」
 松下「やっぱり、抱え込まないというのが大事ですよね。もっと、オープンに『自分は今こんな事で悩んでいるんだ』と家族にどんどん訴えていく。そうする事で早目に家族に気付いてもらうと」

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■認知症患者を怒らない、言っている事を否定しない
 認知症の方と接する時、どんな事に気をつければ良いんですか?

 松下「若年性認知症に限らず、高齢者の認知症もそうなんですけど、どうしても怒ってしまう方が多いんですね。そこを怒らない。怒らないというのは、まずはその人を理解する事から始めないと。理解できなければ怒ってしまうので。
 認知症の人に対する時に一番言われている事は、相手の人の心に触れると言うか、相手の人の精神世界を垣間見ると言うかですね、本当にその人に同化する位に考えていく態度が必要ではないかという事ですね」


 具体的にはどうすれば良いんでしょう?

 梅原「色々な話をされた時に、『それは違うでしょう』と否定しない事ですね。
 例えば、『お母さんに電話をしなきゃいけない』とか言われた時に、『あなた、お母さんはもう何年も前に亡くなったでしょう』と言っても、それは御本人の中では認めていらっしゃらないので、『ああそうだね、とりあえず電話してみようか』というような対応をして、『今いないみたいだね。きっとお買い物かな』と。本人が亡くなった事を理解できていないので、電話という行動をとろうとするわけですから、決して否定をせずに、『それはそうですね』というのをちゃんと認めてあげる。松下さんが言ったように、同化というのは、相手が考えている事に一緒に入っていく事なんですね」


 バリデーション療法というものが最近注目されているそうですね?

 松下「米国のソーシャルワーカーが考えたものなんですけど、日本語では確認療法とか言われています。"バリデーション"には、『価値を認める』というような意味があるらしいですね。今、色々な本とかも出ているんですけど、日常の接し方についてまとめたものという風に考えていただいたら良いかなと思うんです。日常のケア、あるいは日常の接し方の基本になるような事ですね。先程言いましたように、相手の言っている事に対して否定をしない。それを受け入れるという事がたぶん基本だと思います。
 例えば認知症のお父さんが、年頃の娘さんに、認知症が故に色々と普通以上に世話を焼いたり心配ばかりしているというような場合に、『そこまで考える必要はないです』と言ってしまいがちなんですけど、そうではなくて、娘さんと関わりたがっているんだという事をまず受け入れるのが大事だと。否定するんじゃないと。そこから、その精神世界というものを少しでも見て行こうじゃないかという事がバリデーションの基本じゃないかなと思うんですけど」


 そうやっていく事によって認知症の症状は改善されるんですか?

 松下「日常の中で、そういう風な接し方をしていく事によって、随伴症状が落ち着くっていう事は実際あるんですよ。
 認知症というのは、いわゆる記憶障害だとか、日付とか場所が解らなくなる見当識障害というのがあるんですね。そういうのが、いわゆる病気の中核、真髄なわけですね。
 で、自分はどこにいるのか解らないから、ウロウロしてしまう。家族を見ても誰か解らないから、怒ってしまう。『お前は誰や!』という風になってしまう。
 で、その時の対応によっては、そういうものを鎮める事ができる。
 でも、その家族の顔を見て、理解がどんどん回復していくというわけではなくて、その時の対応で気持ちを鎮める事ができるんだという事ですね」

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■社会的に理解されず閉じこもってしまう患者と家族
 若年性認知症の人達と家族が抱える問題にはどんなものがありますか?

 梅原「若年性認知症そのものに対応する福祉サービスが少ないというのが現状です。
 18歳から発症する認知症が若年性認知症と呼ばれているんですけど、18歳〜39歳までは介護保険サービスが受けられませんので、この年代は、福祉サービスは少ないと言うよりは全く無いというのが現状なんですね。
 で、40歳になったところで、頭部外傷だとか交通事故の後遺症だとか、あるいはアルコール症状とか狂牛病とか、そういう事で認知症になられた方は、これはまた介護保険の対象外になりまして、その方達も介護保険のサービスは受けられない。
 また、現状のサービスそのものは、高齢者向けにできているので、若年性認知症の方が受けるサービスには適していない部分もあります」
 松下「若年期の認知症というのは、働き盛りの年代という事ですよね。その時期に認知症になるというのは、家族も御本人も、世間には知られたくないというのが非常に大きいんですよね。
 高齢者の場合でも、数年前までは痴呆というと恥ずかしいという事で、なかなか外には出なかったというのがあると思うんです。今ようやく世間でも、認知症はちゃんとした病気だと認められつつありますが。その昔の状況が、今若年性認知症にはあるんですよね」
 梅原「介護保険ができて、高齢者の方はそこが言えるようになった。サービスができて、それを使えるので、皆さんも口に出せるようになったんです。でも若年性の方は、まだ使えるサービスも無いので、言えないわけですね」
 松下「社会制度上の問題ももちろんあるんですけど、そういった個人レベルの問題もあって、世間に知られたくない分、家族も御本人も閉じこもってしまうんですね」


 でも家庭の中に閉じこもってしまっては、情報等が不足しますよね?

 松下「その問題は非常に大きくて、本当はそこが一番避けたい部分なんですね。閉じこもってしまうという事は。
 そこを、外に出ていただくという事のサポートのための『愛都の会』というのも1つあると思うんですよ」
 梅原「会社の方も問題なんです。上司の方が、若年性認知症の病識が無くて理解してもらえない。認知症になっているにも関わらず、仕事ができない人とみなされる。よく聞く例では、人事異動されたりすると。
 家族の方は、まあ私も主婦ですので解るんですけど、一般に夫が会社でどういう仕事をしてどういう状態で働いているのかっていうのは知らない奥様が多いと思いますので、奥様は認知症に気が付かない。今盛んに専門のお医者さん方は『早期に、早期に』とおっしゃるんですけど、その時点で会社の理解が無い為に発見できなかったというケースもありますので、家族の方の悩みとしては、『おかしいなと思った時に、どうして言っていただけなかったんでしょうか』というのがあるんですね」
 松下「高齢者の場合でももちろん問題はありますけど、家族を本当に崩壊に追いやる程の問題というのは、若年性認知症の場合は深刻ですね。大黒柱が、そのようになってしまうというのは、家族が本当につぶれてしまう位の大きな問題になってしまいますので」

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■『愛都の会』に参加して、笑顔を思い出して!
 『愛都の会』はいつから活動されているんですか?

 梅原「今年の2月12日に発足会をしまして、月1回という形で活動をしています」


 具体的にはどんな活動をしているんですか?

 梅原「まず御本人に対してデイサービスという形で、1日だけのデイなんですけど、作業療法士の方達に関わっていただいてやっております。
 あとは、家族の方の相談にのったり、家族の方同士の交流をしたりですね。本当にわずかな数時間ですけど、御本人と家族を離してあげることによって、少しでもリフレッシュになればいいかなと。そういう事も含めて、家族の方からはお話を伺うという事をしています」
 松下「1日の流れを言うと、朝10〜11時から始まりまして、一応夕方まで。
 午前中、御家族を中心に若年性認知症に関わるミニ講演会をしたりします。午後からは、家族間の交流会をやっているんですね。
 で、朝から講演会をやっている時に、認知症の御本人に対してのデイサービスをしています。まだ始まったばかりですから、ちょっと散歩に出かけたりとかですね。それでもやはり御本人にとっても、その時間だけでも御家族と離れて過ごされる貴重な時間になると思うんです。病気になる以前の状態とできるだけ近い生活という事を、やっぱり提供していきたいと思っているんですね。
 そういう取り組みとしては、今は参加される人数も少ないんですが、夜の部と言うか2次会としてですね、居酒屋に行って御家族、御本人、ボランティアのスタッフも全員一緒に、分け隔てなくお酒を飲みながら和気あいあいとしようじゃないかというのがあります。
 今は認知症でなかなか家から出る事はないけれど、ちょっと前までは仕事をしていて、週末には同僚とお酒を飲みに行ったりしていたわけですよね。そういう気分をもう一度味わっていただきたいという事も含めてですね、お酒を飲みながら皆で笑って楽しく過ごそうじゃないかという事で『笑都の会』という名前をつけているんです。梅原代表が命名したんですが、すごいキャッチフレーズと言うか、良い名前をつけたなと思っているんですけども」
 梅原「参加している御家族、御本人から、昼間はなかなか聞けない本音というのを聞く事ができるんです。奥様との出会いを話されたり、あるいは『よくこういう所(居酒屋)に通っていたんだよね』という話をされたりね。
 御本人が『久し振りに来て楽しかった』と言って帰っていただきますと、家族の方も『なかなか夫と2人でこんな機会は無いので、皆でワイワイして大声で笑って帰れるので、良かったです』と言っていただけますので、今後もその会は続けていきたいなと思っています」

『愛都の会』のお問い合わせはFAXで受け付けています。
FAX番号は072−863−5064です。

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