| 米朝 |
とにかく人間が食べて死なないものというのが分かったら、何でも口にして試みるということになってますけど... |
| 石毛 |
そうですね、まぁ元々食い意地が張ってる... |
| 米朝 |
(笑)そう言うてしまえばそれまでやけど、危険を感じたということはございませなんだ? |
| 石毛 |
ゲテモノを嫌がる人は沢山いますが、そういう意味であんまり抵抗無いんですよ。我々日本人にとってのゲテモノ、蛇だとかワニですね、キリン...、キリンは食べてないな... |
| 米朝 |
(笑) |
| 石毛 |
シマウマとかそこの人が食べるものは一応食べる。だけどそれに対する抵抗感より、食べる時これはちょっとかなわんなと思うのは、むしろ衛生の問題なんですよね。 |
| 米朝 |
食品とか危険とかそうじゃなしに。 |
| 石毛 |
ええ。屋台で何かこう真っ黒な食い物を売ってる、夜だからなんだか分からない。で「これくれ」と言って手を差し伸べたら、ハエが飛んでいって、それで真っ黒になってたんですね。そんな話でいったら中国の雲南州、少数民族の家でごちそうになったんです。一番最初に豚の生き血をどんぶり鉢に入れて「これをぐっと飲め」と... |
| 米朝 |
はぁ〜 |
| 石毛 |
私は昔日本民族の起源をウィルスで明らかにしようというプロジェクトでお医者さんと一緒に研究していたものですから、ウィルスの恐さを知ってるんです。それで一番危ないのが血液なんです。口の中に傷があったりしてそこから感染する可能性があります。ただ血というのは大変栄養に富む食べ物ですから、血を食べる習慣は隣の朝鮮半島までは入っています。中国は動物を殺したら血に塩を入れて固めて豆腐みたいにする。ヨーロッパは血のソーセージなんてのがあります。ただそういったのは熱を加えて食べますから心配ないんです。だけど生き血というのはずいぶんヤバイ食い物でして... |
| 聞き手 |
へぇ〜 |
| 石毛 |
まず生き血を飲ませるというのは私が主賓だったんで、「お前さんのために豚を一頭殺しましたよ」という印に飲ませるわけです。ですからちょっと美味そうな顔をして飲まなきゃなんないというようなことになったりします。 |
| 米朝 |
ほぉ〜、なるほどね。 |
| 聞き手 |
それをお飲みになって大丈夫だったんですか? |
| 石毛 |
ええ。私が若い頃はお医者さんのいないような村に何ヶ月も暮らすことが多かったんで、日本を出る前にお医者さんに抗生物質を貰って(出かけるんです)それで滅多に飲まないようにして、これはどうもヤバイなと思ったら、まず正露丸を飲んでダメだったら抗生物質を飲むということで、まぁ、今の所、現地で大きな病気をしたこともないですね。 |
| 聞き手 |
そういう生活はどのくらいお続けになっているんですか? |
| 石毛 |
例えば東アフリカですとタンザニアの奥地の村に8ヶ月いたとか...。まぁ、我々の仕事はその社会全体を見ます。そうすると年中行事などもあるし、理想なのは一つの場所に1年間いることですね。 |
| 米朝 |
やはり熱を加えて食べるというのが多いですか? |
| 石毛 |
それはもう多いです。生のまま食べることを立派な料理に仕上げたのは世界の中でも日本だけでしょうね。 |
| 米朝 |
はぁ〜、なるほど。 |
| 石毛 |
例えばお隣の中国。中国料理で師匠、生のものって食べた記憶がありますか? |
| 米朝 |
いや〜...、前もねそんなこと言われたんですけどね、野菜でもあんまり生で食べませんね。 |
| 石毛 |
中国で生で食べる野菜は1つだけあります。トマトですね。トマトをスライスして、砂糖を沢山かけて、これが食事の時の前菜ですね。あとはサラダ菜の葉っぱに豚肉のそぼろだとかそういうのをくるんで食べる習慣があります。それぐらいで漬け物以外は中国でもまず生では(食べません)中国の古代ではけっこう生ものがあったんです。例えば孔子さんは論語の中で「なますは綺麗に切ったものでなければいけない」と書いてある。「なます(膾)」という字は中国の漢字では「月」偏に「合」と書きます。日本では「魚」偏に「合」と書きます。魚偏のなます(鱠)は「国字」と言って、どうも日本で作った字らしいんです。中国は膾を肉で作ってたんです。生肉を糸切りなんかにして生のまま食べる。もちろん魚でもやったわけで、ちょっと前まで中国、広東省や福建省では魚の刺身があったんです。中国は海岸線がたいへん短い国土ですから、魚といったらだいたい淡水魚です。淡水魚だと寄生虫がありますから、革命後にそれが禁止されました。ですから中国流の魚の刺身は台湾と、中国人が主になって作り上げた国家のシンガポールに残っています。 |
| 米朝 |
ほ〜。 |
| 石毛 |
シンガポールでは春節(中国の正月)になりますと、海の魚の刺身が出てきます。これは食べる時に広東風だと羊のしゃぶしゃぶと同じように、唐辛子やニンニクや酢、あるいはシャージャンといってアミの塩からの汁から作った醤油、パクチーなどを自分で調合して食べます。福建流は基本的に山桃をジャム状にしたもので食べます。刺身を甘いジャムで食べるというのはどうも我々の味覚には(笑) |
| 米朝 |
醤油はないんですか? |
| 石毛 |
ありますが、福建流の主なものは山桃のジャムですね。で中国の歴史でいいますと、時間が経つにつれて生ものを食べないようになるんです。宋の時代あたりから鉄の鍋が普及するんです。そうすると土器で作った鍋みたいに壊れやすくないですから油さえあれば何でもいためて食べるようになりました。魚に関しては元の時代、これはモンゴル人が作った王朝で、モンゴル人は魚を食べませんから魚が下火になる。次の王朝、明で一度復活しますが、清の時代になるとほとんど生ものは食べなくなりました。 |