| 米朝 |
4月3日の産経新聞に『五代目松鶴大入帳』という記事が載ってましてね。この「大入帳」は先代の五代目(松鶴)さんの所にあった物で、私、実は昔々ノートに内容を写し取ったことがありますねん。五代目さんの弟弟子に当たる、上谷鶴三さんという人が字がうまいんで清書し直して、さらに私が大学ノートみたいなとこへ写してたんやけど、ま、貴重なもんです。これが何かの機関に保存されたら結構なことやと思います。 |
| 聞き手 |
五代目松鶴という方は「上方はなし」という雑誌を戦争中に出版されて... |
| 米朝 |
そうです。紙がもう手に入らんようになるまでね、出し続けてました。初めの頃は「家にこんなもんがあるで」と写真なんかが集まってきてね。いや本当にあの時のあのお方がこれをしはったおかげで残ったという物も沢山あります。今里の(五代目松鶴の)家は空襲には遭わなんだんでね、あそこにはいろんなもんが残ってました。 |
| 聞き手 |
でもその大入帳を拝見して、600ネタが書いてあって、今では分からないネタもあるわけですよね。 |
| 米朝 |
それはね、題と下げが書いてあるだけやから。 |
| 聞き手 |
(貴重な資料といえば...)芝居噺の文我さんの出演(出席)控えですが... |
| 米朝 |
あれはね、東京で売り飛ばされたりいろんなことがあって、1冊だけまだ分からん... |
| 聞き手 |
ないんですね。あれも文我さんという方が地方に行ってこの席にでて... |
| 米朝 |
割まで書いてある。「割り」というのはつまり出演料や、その日こんだけ金が上がったさかいこういう風に分けたという、心覚えでチョッチョと書いてあるだけやけどね、仲間内が見たら分かりますわ。また囃子の名前まで書いてあるしね。 |
| 聞き手 |
(当時でも珍しい...)芝居噺をされますから(しっかりした)お囃子がなかったら困るわけですね。 |
| 米朝 |
所々数字が書いてあるのはお客の数やろと思うねん。残念なことにね、入場料が書いてないねん。 |
| 聞き手 |
控えを書いていたのが大正ぐらいですよね。 |
| 米朝 |
宿屋の女の名前なんかも書いてある。「これは必ず因縁のあった奴が書いてあるんやろう」と言うてましたけどね。しばらく続いたとか何とか(笑) |
| 聞き手 |
上方落語に限定しても、こういう噺家さんが残した資料は本当に少ないんですか? |
| 米朝 |
少ないですなぁ〜。ま、「上方はなし」を五代目が出してくれはったんで、あれにはいろいろな物が載ってますわな。 |
| 聞き手 |
あの(出版された)間は吉本の寄席には、でてなかったんですよね。 |
| 米朝 |
そう。上方落語研究会なんかをこしらえて、独自のやり方でやってた時分ですわ。 |
| 聞き手 |
聞く所によると、吉本さんが漫才を偏重しすぎると... |
| 米朝 |
どう思うてたんかなぁ〜。私それから林正之助さんと対談しましたが、あの人は漫才を大事にして、「これからはこれや」とそれはその通りなんやけどね、落語は滅びてしまってもええというふうな...? ま、私やからそういう言い方ではなかったですよ。「君らみたいな若い人がでてきてな、こういう風にあるのは結構なこっちゃ」という意味のことを言うて、ただ、(戦後に)キタの花月(うめだ花月)の楽屋で、袖みたいな所で腰掛けてね、「こっちの落語がもういっぺん銭になるとは思わなんだな」って、独り言みたいに言うてたことがありました。 |
| 聞き手 |
正之助さんなればこそですね。これも聞く所によりますと、五代目師匠はそこそこのお給金貰うてはったみたいですね。お給金が安いからお辞めになったんやなしに、仲間の扱いが、あまりにも悪いと... |
| 米朝 |
それから(二代目)林家染丸さん、おトミさん(林家トミ)さんの旦那さん。晩年、おトミさんが頼んだんよ。ほならヘタリに、つまり鳴り物方になら雇うてくれるという。 |
| 聞き手 |
吉本が...、へぇ〜。 |
| 米朝 |
そりゃもう高座に出したって、売りもんにはならなんだでしょう。どのくらい給料くれたか知らんけど、さすがにおトミさん、それは断ったらしいわ。 |
| 聞き手 |
ま、言えば大師匠ですもんね。ご高齢としても、それはちょっとね...。あの「上方はなし」をほとんどお書きになっているのが米朝師匠の師匠、桂米團治師匠だと聞いていますが。 |
| 米朝 |
そりゃ沢山書いてます。そやけど全部ではない。でもはっきり言うて、あんなもん誰もやる人おらなんだ、克明に書き写したりするようなね。 |
| 聞き手 |
また挿絵が面白いですよね。 |
| 米朝 |
あれはね、怪談で有名な(三遊亭)志ん蔵さん。あの人の絵ですわ。でも他に2人ほどおりまんねんけど、絵描きさんは1人もおらん、みんな素人が慰みに描いた絵なんや。それが面白い、じつに面白いですね。 |
| 聞き手 |
昔、三一書房から復刻されまして、49回、上下巻で。亡くなられた三田純市先生が解説していらして。現在市販はされていませんで、古書市で、定価は上下巻で1万5千円なんですけど、だいたい15万ぐらい。 |
| 米朝 |
へぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。また活字にしようという人は当分でないでしょうけどな。 |
| 聞き手 |
僕は学生時代に買いましたけど、やっぱりその当時のことはなんにも分かりませんが、四代目米團治師匠が「親父よゆるせ」と三代目米團治師匠のことを書いている所とか... |
| 米朝 |
あれ、連載されてましたな。 |
| 聞き手 |
あれ、非常に面白いですね。 |
| 米朝 |
面白いですね、あれはね。うちの師匠も絵は面白かったですよ。文章もなかなかしゃれてましたけどな。 |
| 聞き手 |
そういう意味では才人ですね。 |